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Published on 12月 9th, 2015 | by ダッド編集部

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映画ギーク佐藤光の「007 スペクター」レビュー



この記事の執筆者は、映画ライターの佐藤光さんです。 ダッド|育児ジェントルへ、プロがエスコート

映画ライターが語る、映画「007 スペクター」感想

[2015年 監:サム・メンデス 出:ダニエル・クレイグ、クリストフ・ヴァルツ]

JAMES BOND WILL RETURN

『007』シリーズというやつ、昔はどうも食指が動かなかった。理由はその古色蒼然とした「なり」にある。筆者が中学生の頃、もう一つのスパイ映画シリーズ『ミッション:インポッシブル』の第一弾(96年)が公開され、全世界で大ヒットを記録。熱した鉄板の上の猫のようにチャキチャキと動き回るトム・クルーズ、そしてブライアン・デ・パルマ監督の流麗なカメラ・テクニックと最新VFXを駆使した映像のつるべ打ちに、洟垂れ小僧の筆者はスパイ・アクション映画の新時代到来を感じていた。一方、その前年に封切られた『007 ゴールデンアイ』(95年)はといえば、いかにもキザッたらしい顔つきのオッチャン(ピアース・ブロスナン様すいません……)がドラえもん顔負けの万能ツール携え、相変わらずパリッとしたスーツなんぞ着てドヤ顔でポーズ取ってやがる。しかも両脇にはエロそうな美女まで侍らせて。この佇まいからして、オッサンに都合のいい妄想を戯れ100パーで具現化したようにしか見えず、当時で既にシリーズ17作を数えていた点も「オッチャン、まだやんのかい?」という冷笑の対象でしかなかった。手っ取り早く言えば「ダセェ」と思ったのである。

ところが、だ。シリーズ休止から4年のブランクを経て製作された第21作『007 カジノ・ロワイヤル』(06年)を観た時、筆者が『007』に対して抱いていた悪印象はキレイさっぱり吹き飛ばされる。汗みどろで悪者を追いかけるボンド、鼻血垂らしながらの余裕ゼロな表情でボコりボコられるボンド、ポーカーの大勝負で大金スッて(しかも公費)自制心を失いかけるボンド、全男子にとっての悪夢ともいうべき拷問に悶絶するボンド……おいおい、なかなかヤンチャでタフじゃねぇか。そこにタキシードを着た伊達男が放つクドい洒落臭さは微塵も無かった(いや、ちゃんと着てるけどね、タキシード)。実のところ、オッチャンは頑張っていたのである!そんな苦労人とは露知らず、筆者は彼の上っ面だけ見て不当な評価を……己の浅薄、深く恥じ入った次第です。そんなアンチ・ボンド派の筆者を開眼させた男こそ、6代目ジェームズ・ボンドことダニエル・クレイグ。襲名披露直後に方々から噴出した「やーいミスキャスト!」の大ブーイングを見事な演技で一掃してみせた、野性的魅力の塊みたいな俳優である。本作『スペクター』はクレイグ版ボンドの4作目にして、権利上のゴタゴタで40年以上も銀幕から遠ざかっていた悪の組織「スペクター」が華々しく復活した記念碑的作品だ。

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冒頭、いきなりの超絶長回し撮影から展開するド派手なヘリコプター・アクションでツカミはバッチリ。秘密兵器開発担当“Q”とのやりとりは前作『スカイフォール』(12年)から更に一歩進んで漫才的可笑しみが増し、狭苦しい場所での複雑かつ激しい格闘はもはやスラップスティック・コメディすれすれの域に達していて、尚且つ満足度も高い。『スカイフォール』で「前時代の遺物」呼ばわりされていたダブルオー部門の立場は更に危うくなっており、母体の屋台骨がグラグラな状態で最強の犯罪組織を相手にしなければならない、という状況設定がサスペンスを盛り上げる。そしてその犯罪シンジケートの首領オーベルハウザーに扮するのは、Q・タランティーノ監督の2作品で2度のオスカーに輝いたクセモノ役者クリストフ・ヴァルツ!何やらボンドとの間に浅からぬ因縁があったらしいこの男こそ、前3作品に登場したヴィランたちを陰から操っていた張本人なのである。狭い肩幅にヒョロい胴回り、肉体的には全然強そうに見えないのだが、そんな体の上にヴァルツの頭が乗っていると、迂闊に手を出してはマズいと思わせるような迫力を帯びるのだから不思議だ。『スカイフォール』のハビエル・バルデムもそうだったが、サム・メンデス監督の悪役チョイスには毎回嬉しい驚きがある(そういえばメンデス監督の『ロード・トゥ・パーディション』(02年)で一番憎たらしい悪役を演じていたのが、ほかでもないダニエル・クレイグだった)。

難点が無いわけではない。SIS本部ビルがズダボロなのは何故?Mとは誰?ヴェスパーってどんな女?……等々、『カジノ・ロワイヤル』以降の『007』シリーズを鑑賞していない観客にとっては、すんなりと理解できないであろう箇所もいくつかある。顔見せ出演のモニカ・ベルッチは置いとくとして、レア・セドゥ演じるマデレーン・スワンのキャラがチト弱い(役者のせいではない。ヴェスパー・リンドは歴代ボンドガールの中でも別格の存在なので、彼女の名が出た途端、新参ヒロインの存在感はどうしたって霞んでしまうのだ)。クライマックスも、サービス精神過剰な監督によるボンド映画と比較すると存外アッサリしているので、若干の物足りなさを感じる観客もいるだろう。

しかし、「007シリーズ最高傑作」とまで謳われた『スカイフォール』の後で、プレッシャーを物ともせずにこれだけの作品を撮りあげた製作陣の底力は驚嘆に価する。148分という上映時間も全く苦にならず、むしろもっと観ていたいと思わせる。人気長大シリーズの宿命である「偉大なるマンネリズム」と仲良く付き合いながら、趣向を凝らした新たな試みも積極的に取り入れることでファンを魅了し続けてきた『007』。娯楽映画の歴史が幕を閉じるその日まで、殺しのライセンスが効力を失うことはないハズだ。

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映画コンシェルジュ 佐藤光
1983年生。映像制作者・ライター。年間200本以上の映画や舞台を鑑賞し、買うCDはサントラばかり、いくら家計が厳しくともDVD・Blu-ray収集を止められない映画バカ。当の本人は「宵越しの銭っこは持たん主義」と涙目で強がっている。

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