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Published on 8月 9th, 2016 | by ダッド編集部

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(R15)映画「ヒストリー・オブ・バイオレンス」を映画ライターがレビュー。



この記事の執筆者は、映画ライターの佐藤光さんです。 ダッド|育児ジェントルへ、プロがエスコート

映画ライター佐藤光が語る、映画「ヒストリー・オブ・バイオレンス」感想

※レビュー内にはネタバレを含みます。
※本作はR-15指定映画です。

[2005年 監:デヴィッド・クローネンバーグ 出:ヴィゴ・モーテンセン、マリア・ベロ]

だが、希望はある

あらすじ

トム・ストールは、小さな町で小さなダイナーを経営するごく普通の中年男。妻のエディ、そして2人の子どもたちと共に平凡で幸せな日々を送っていた。しかしある夜、閉店間際のダイナーに押し入った武装強盗たちをトムが射殺。客の命を救った英雄として一躍「町の有名人」になるトムだったが、その日以来、彼の周囲で犯罪組織の不穏な影がチラつき始める。トムを「ジョーイ・キューザック」の名で呼び、彼が過去に裏社会で悪行を重ねてきた男であると仄めかすマフィアたち。夫の廉潔を信じて疑わないエディに対しても、一団のリーダー格である隻眼の男フォガティは冷たく言い放つ。「一度、旦那に訊いてみるといい。なぜそんなに手際よく、人が殺せるのか?とな」……。

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原作ジョン・ワグナー、作画ヴィンス・ロックによるグラフィック・ノヴェル“A History of Violence”(映画公開に合わせ、小学館プロダクションより邦訳版が刊行)を、カナダの鬼才デヴィッド・クローネンバーグ監督が実写化。プロットだけ見れば、リーアム・ニーソン主演作『96時間』(08年)などと同系統の「中年オヤジ無双アクション映画」に分類されそうな作品ではあるが、そこはエロ・グロ・バイオレンス描写に関して一切の妥協を許さぬクローネンバーグ。気弱な観客なら思わず目を背けてしまうほどの、無慈悲な暴力と冷厳なイメージが全編に満ちている。

物語序盤で描写されるトムの日常は、穏やかで品行方正そのもの。「この人が悪者だというのなら、善人と呼ばれるに値する人物など現世には存在しまい」とまで思えてしまうほどだ。フォガティに「ジョーイ」の名で呼ばれた時も、狼狽の色などカケラも見せず、極めて自然な困惑の反応を示すのみ。こりゃきっと不運すぎる人違いか、あるいはヤクザの悪質な言いがかりだろう……観客もトムの家族も、そう決めつけてコトを丸く収めたいのは山々なのだが、そんな断定を思い止まらせてしまうのが危機的状況下でのトムの冷静さ、そして我が身と家族を守ろうとする際に見せる、正確無比の殺人スキルだ。いくら正当防衛の範囲内とはいえ、あの判断力と慣れた手捌きは「火事場の馬鹿力」だけで説明しきれるものなのだろうか?この作品が『96時間』のような映画と決定的に異なるのはまさにこの真相判明パート、トム=ジョーイであることが遂に明らかになった時に我々が感じるのが、カタルシスではなく強烈な虚無感(あるいは嫌悪感)だという点である。

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至近距離からの銃弾を食らった顔はズタズタに裂け、掌底を繰り返し叩き込まれれば鼻は潰れ血が噴き出す……典型的な痛快アクション映画ならフレーム・アウトするかソフトな描写で処理されるハズの人体損壊を、クローネンバーグ監督は「暴力が行使されれば当然生じる結果」として冷徹に映し捉える。『ステレオ/均衡の遺失』(69年)から一貫して肉体・精神変容をテーマに作品を撮り続けてきた監督のこと、エンタメ性を排した過激なバイオレンス表現が観客に与える衝撃の大きさなど、とうに承知かつ計算済みだ。静かだが酸鼻の極みともいうべき光景を目の当たりに見た我々は、トムの真人間としての生活とジョーイがかつて犯してきたであろう悪逆無道の行いを秤に掛けずにはいられない。この男に人生再出発のチャンスを得る資格などあるのか、それを望んだとして、周囲の人間は彼を赦すのか?そして一度バラバラに解体されてしまった、トムと家族の信頼関係の再生は?本作もその他多くのクローネンバーグ作品と同様、万人を安堵させるような結論がクライマックスで明示されることはない。

なんだか救いのカケラも見出せぬ、陰惨一辺倒な映画だと思われているかもしれない『ヒストリー・オブ・バイオレンス』だが、ここで興味深いのはセルDVDに収録されたメイキング映像での、脚本担当ジョシュ・オルソンのコメントだ。オルソンによれば、撮影に使用された台本の最終ページには、彼が書いた覚えのない一行が印刷されていたという。“There’s hope.”(希望はある)……可視化不能なこの単文に、主人公一家の未来予想図に対するクローネンバーグの願いが集約されているような気がしてならない。 

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映画コンシェルジュ 佐藤光
1983年生。映像制作者・ライター。年間200本以上の映画や舞台を鑑賞し、買うCDはサントラばかり、いくら家計が厳しくともDVD・Blu-ray収集を止められない映画バカ。当の本人は「宵越しの銭っこは持たん主義」と涙目で強がっている。
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